登録第5006976号商標:恋苺
登録第6438678号商標:あわ恋いちご
「あわ恋いちご」と登録第5006976号商標「恋苺」との間で誤認・混同が起きるか否かが争われました。
被告は徳島県の苺栽培者であった事から「あわ恋いちご」の「あわ」に「阿波」「徳島県」を連想させたい思惑が有ったように思われますが、この思惑が本件訴訟では致命傷になりました。
パッケージに「徳島県産」「阿波」「阿波踊り」を記載せず、
「淡い恋のような味がするあわ恋いちご」を記載していたならば、
被告は負けなかったでしょうね。
本件は、商標のみでなく、その使用形態に注意が必用と言う事例です。
令和6年(ワ)第5007号 商標権侵害差止請求事件
主 文
1 被告は、いちご商品に別紙被告標章目録記載の標章を付し、同商品を販売してはならない。2 被告は、別紙被告標章目録記載の標章を付した前項記載の商品から、同標章を抹消せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求 主文同旨
第2 事案の概要
(1) 本件商標:商標登録第5006976号に係る商標「恋苺」
(2) 被告標章:上記の標章
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件商標と被告標章が類似するか)について
【原告の主張】
(1) 被告標章の要部被告標章は、平仮名2文字「あわ」、漢字1文字「恋」、平仮名3文字「いちご」で構成される。冒頭の「あわ」は、3文字目が「恋」という独立した意味の漢字であるから、「あわ」部分が一つのまとまりとして受け止められ、取引者・需要者において徳島地方の旧称「阿波」を想起させる。そうすると、「あわ」の部分は、商品の産地又は販売地を意味するにすぎず、商品の出所識別機能を有さない。よって、被告標章の要部は、「恋いちご」の構成部分である。
【被告の主張】
(1) 被告標章の要部
複数の構成部分を組み合わせた結合商標について、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。被告標章は「あわ」「恋」「いちご」から構成されるが、各部分は同じ書体、文字の大きさで等間隔に一行で表記されているから、一連の語の全体が識別機能を果たし、「恋いちご」のみが強く支配的な印象を与えるものではない。よって、「恋いちご」部分のみを抽出して類否判断をすべきではなく、被告標章の要部は「あわ恋いちご」全体である。…
被告標章は、「あわ」「恋」「いちご」から構成され、「あわ」の部分からは、地方名称の「阿波」のみならず「淡」「泡」などが想起され得るが、「恋」と組み合わせられていることや被告標章の字体が丸みを帯びた書体であることから、「あわ恋」部分からは「淡い恋」が想起される。実際、「あわ恋」は、ある限られた人やシチュエーションでないと経験できないとの認識で命名されたものであり、……
第4 判断
1 争点1(本件商標と被告標章が類似するか)について
(1) 判断手法
商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得るかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11 日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)10 第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。
(2) 本件商標と被告標章の対比
ア 分離観察の可否
(ア) 本件商標は、明朝体風の漢字2文字(「恋」「苺」)が縦書きされたものであり、各文字の大きさ及び色彩は同一である。
(イ) 被告標章は、やや丸みのあるPOP体風の平仮名2文字(「あわ」)漢字1文字(「恋」)及び平仮名3文字(「いちご」)が、等間隔にやや円弧状に横書きされたもので、各文字の大きさ及び色彩は同一であり、まとまりよく構成されている。他方、被告標章のうち「あわ」部分については、「あわ」には「泡、粟、安房(千葉県南部の旧称)、阿波(徳島県の旧称)」などの複数の意味があり、平仮名表記であるがゆえに多義的なものといえるところ、指定商品との関係において、「あわ」が、例えば「泡」の意味である場合、「あわ」部分も自他商品の識別力を有し得るとはいえるが、「あわ」が「阿波」及び「安房」の意味である場合、「あわ」部分は地域を示す普通名称にすぎない上、産地表示などが広く行われているいちごを指定商品としていることからも、上記識別力があるとはいえない。そうすると、被告標章については、需要者において、「あわ」部分が上記のように複数ある意味のうち、「泡」のように一定の識別力を持ち得る意味として受け取られるであろう取引の実情があるのであれば、「あわ」の識別力が否定できない結果、「恋いちご」の部分のみを抽出した類否判断が許されないことも想定される一方、被告標章が付されたパッケージの態様など取引の実情に照らし、需要者において、「あわ」が識別力を伴わない地域名称を意味し、産地や販売地を表示するものとして受け取られるのであれば、「恋いちご」の部分を抽出して本件商標と比較検討することが許されるものといえる(標章の分離観察の可否も、需要者の観点から商標類否を判断する過程そのものであるところ、取引の実情を踏まえるべきものといえる。)。
そして、本件の取引の実情をみると、被告各商品のパッケージには、被告標章のほかに、「徳島県産」とのいちごの産地を示す文字や「徳島県産 阿波のいちご」との文字が付記され、徳島県の伝統芸能である阿波踊りの踊り子や「阿波」と記載された提灯のイラストが目立つ態様で描かれている(甲3、4)ところ、被告標章の「あわ」の部分につき、漢字ではなく、平仮名表記とはいえ、需要者に対し、地域名称である「阿波」を意味し、産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえるから、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され、「恋いちご」部分を抽出して、本件商標と比較検討することができるというべきである。
イ 原告商標と被告標章の分離部分の類否の検討
本件商標と被告標章の「恋いちご」部分を対比すると、外観は上記ア(ア)のとおりであり、冒頭の「恋」の漢字において共通する一方、書体や「いちご」部分が漢字であるか平仮名であるかの違いこそあるものの、呼称としては、本件商標が「レンバイ」「レンマイ」「コイイチゴ」であるのに対し、被告標章の「恋いちご」部分も「コイイチゴ」であって、「コイイチゴ」の称呼において同一である。……被告標章の「恋いちご」部分に接した需要者(商品の取引者や消費者)は、本件商標と出所を誤認混同するおそれがあると認められ、両者は全体として類似するといえる。
第5 結論
以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
一審と二審とでは結果が真逆ですが、訴訟になったと言う事自体やはり使い方は注意するに越した事はないでしょう。
『理屈と膏薬はどこへでも付く』ですから…
令和7年(ネ)第1750号 商標権侵害差止請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所令和6年(ワ)第5007号)
判 決
主 文
1 原判決を取り消す。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、原判決とは異なり、被告標章は本件商標と類似していないから、本件商標権侵害を理由とする被控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。
2 争点1(本件商標と被告標章が類似するか)について
(1) 被控訴人は、被告標章は「あわ」と「恋いちご」を組み合わせた結合商標であり、「恋いちご」部分が要部であるとして、これを前提に本件商標と類否を判断し類似である旨主張するところ、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁、最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
そして、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成9年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。
(2) これにより本件についてみると、被告標章の構成中には、本件商標と同じ称呼を生ずる「恋いちご」という文字部分が含まれているが、被告標章は、あわ恋いちご」の文字をやや丸みのあるPOP体風書体の文字をやや円弧状に横書きして成されたものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「恋いちご」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。また、引用した前提事実(2)によれば、本件商標は平成18年に商標登録された商標であるが、いかなる態様で使用されているについて明らかにされておらず、これが取引者、需要者に広く知られていることを認めるに足りる証拠は被告各商品が取引されている地域に限ってもないから、本件商標と同じ称呼である被告標章の構成中の「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできない。
これに対して被控訴人は、被告標章の冒頭に付された「あわ」の文字部分は、旧国名としての地名である「阿波」を想起させるもので、商品の産地又は販売地を意味するにすぎないため出所識別機能を有さず、「恋いちご」の文字部分が出所識別機能を担う要部になると主張する。
確かに、被告各商品のパッケージの表面のデザインからは、そこに付された被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるといえる。
しかし、被告標章のみで観察した場合、「あわ」の文字からは、「阿波」のみならず「泡」、「粟」、「安房」、「淡」も想起され得ることからすると、被告各商品のパッケージの表面のデザインにおいて被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるのは、被告各商品のパッケージの表面に被告標章と共に「徳島県産」の表記、阿波踊りの踊り手及び「阿波」と記載された高張提灯のイラストが描かれ、さらに本件各商品2には「徳島県産 阿波のいちご」と記載され、これらの記載類から、被告標章の「あわ」の文字部分が地名である「阿波」の意味を有することが示唆されているからというべきである。そして、このようにいえることは、証拠(甲8)によれば、被告各商品のように商品名の冒頭に地名の「阿波」を意味するものとして平仮名の「あわ」が用いられている商品では、パッケージ等に商品名の冒頭の「あわ」の文字部分が地名の「阿波」であることを示唆する記載を伴うことが一般的であると認められることから裏付けられているといえる(なお、各商標の説明は、同表「説明等(裁判所認定)」欄記載のとおりである。また、前掲証拠によれば、同表に列挙したとおり、サービス、サービス提供場所等の名称にも「あわ」の文字部分を地名の「阿波」で用いられている例が多数あるが、これらの場合には、そのサービス提供者、サービス提供場所自体が徳島に関連することが明らかな状態で使用されているので、そのことによって「あわ」の文字部分が地名の「阿波」を意味することが示唆されていると認められる。)。
そして、被告標章を付された上記デザインのパッケージがいちごを同梱した被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情を考慮すると、被告標章の構成中の「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であるということになるから、その部分は、商品を普通に記述しているにすぎないと理解され、その余の部分である「あわ恋」という言葉は、既存の言葉に「淡い恋心」、「淡い恋」などがあり、また、被告標章の外観が柔らかな印象が与えられるようデザインされていることと相まって「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されるものと考えられるから、前説示のとおり、「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったとはいえないことも考え併せると、被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じているというべきである。
そうすると、被告標章が上記デザインのパッケージに付されることによって、「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるとしても、上記デザインのパッケージがいちごを同梱商品とする被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情の下においては、被告標章は、「あわ恋」と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の文字部分に被告各商品の産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないと考えられることになるから、被告標章と本件商標の類否を判断するに当たっては、被告標章を「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されないというべきである。
したがって、被告標章の冒頭に付された「あわ」の文字部分は出所識別機能を有さず、「恋いちご」の文字部分が出所識別機能を担う要部になるとして、被告標章の構成中の「恋いちご」の文字部分を抽出し、この部分だけを本件商標と比較して商標そのものの類否を判断しようとする被控訴人の主張は採用することができないというべきである。
…
第4 結論
以上によれば、被控訴人の請求にはいずれも理由がないから棄却すべきところ、これを認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、被控訴人の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部