東京地裁の判決と知財高裁の判決とは、証拠資料を同じくするも、結果は真逆です。
訴訟では、原告と被告との間での戦いですが、ターゲットは裁判官です。
裁判官をより納得させる論理を構築した者が勝訴です。
上記商標の商標権者である原告が、被告が電子掲示板に「2ちゃんねる」「2ch.net」の表示をする事は上記各商標権を侵害すると主張して、商標法第36条第1項又は不正競争防止法第3条第1項に基づき、被告標章の使用の差止め、及び商標権侵害につき民法709条,不正競争行為につき不正競争防止法第4条に基づき損害賠償1億7500万円及び平成29年1月19日から被告標章の使用を中止するまで月額500万円の割合による金員の支払を求めた事案です。
一審・東京地裁の判決が
「1 本件訴えのうち,令和元年11月2日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えを却下する。
2 被告は,その運営する掲示板に,別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。」
であったのに対して、
二審・知財高裁の判決は
「1 控訴人の本件控訴に基づき、原判決主文3項を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、2億1700万円を支払え。
(2) 控訴人の損害賠償請求のうち令和元年11月1日までに生ずべき損害賠償金の支払を求める部分のその余の請求及び「2ch.net」のドメイン名の使用の差止めを求める控訴人の請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文2項を取り消し、同項に係る控訴人の請求を棄却する。」
でした。
平成29年(ワ)第3428号 商標権侵害差止等請求事件
【東京地方裁判所民事第46部における判決】
主 文
1 本件訴えのうち,令和元年11月2日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えを却下する。
2 被告は,その運営する掲示板に,別紙被告標章目録記載の各標章を使用してはならない。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
(2) 争点1-2(被告は被告標章について先使用権を有するか)について
(被告の主張)
被告は,平成16年から平成29年9月30日まで,継続して本件電子掲示板を管理・運営し,不正競争の目的によることなく,原告による原告商標の出願日以前から被告標章を使用していた。
また,本件電子掲示板の事業において,被告標章は,原告商標の出願以前から需要者の間に広く認識されており,周知であった。
したがって,被告には,被告標章1及び2につき先使用権が認められる。
(原告の主張)
平成11年以降平成26年2月19日まで,本件電子掲示板を運営していたのは原告である。上記期間,原告は,被告に対し,本件電子掲示板のサーバのID・パスワードの管理と本件ドメイン名の管理を委託していたにすぎない。本件電子掲示板を平成16年から運営している旨の被告の主張は,本件電子掲示板の運営主体という極めて基本的事項について主張が変遷しており,信用できない。
また,原告商標1及び2の出願当時において,被告標章1及び2が被告の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていなかったことは明らかである。
さらに,被告は,平成26年2月19日に原告が本件電子掲示板のサーバにアクセスできないようにして本件電子掲示板を乗っ取ったのであるから,「不正競争の目的」(商標法32条1項前段)が認められる。
したがって,被告には,被告標章1及び2につき先使用権は認められない。
第3 当裁判所の判断
……
争点1-2(被告は被告標章について先使用権を有するか)について
被告は,原告商標の出願日の前から,被告標章を使用して本件電子掲示板を管理・運営していたとし,被告標章につき先使用権を有する旨主張する。
前提事実2⑷及び前記2のとおり,原告商標1及び2の指定役務と本件電子掲示板の役務は同一であり,被告標章は原告商標と,それぞれ同一又は類似する。
前記認定事実によれば,本件電子掲示板は,①平成11年に開設され,平成12年に西鉄バスジャック事件の犯人とされる少年が同掲示板に犯行予告を書き込むなどの出来事もあって社会的に注目を集めるようになり,平成14年頃には利用者が急激に増加し(前記2⑵ア,ウ,エ),②平成16年及び平成17年には本件電子掲示板に掲載された投稿をほぼそのまま出版した「電車男」が話題となり,インターネットに係る複数の賞を受賞し,これがネットニュースで報道され(前記2⑵カ),③平成18年頃には,本件電子掲示板の名称である「2ちゃんねる」という言葉がマスコミにおいて頻繁に登場したり,本件電子掲示板内において使用される用語が一般の雑誌においても使われたり,電子掲示板を利用しない一般人の間でも本件電子掲示板が話題に上ったりするようになった(前記2⑵キ)。
これらによれば,本件電子掲示板のトップページ等に表示されていた被告標章1及び2は,遅くとも,平成18年には,本件電子掲示板に係る役務を表示するものとして,全国の需要者の間に広く認識されるに至ったと認めることができる。そして,平成25年3月当時,本件電子掲示板の月間の閲覧数が29億にのぼるとして「日本語圏最大級のネットコミュニティ」などと宣伝されていたことに照らせば(前記2⑵ス),原告商標が出願された日においても,上記周知性が維持,継続していたものと認められる。
……
以上によれば,被告は,被告標章につき先使用権を有すると認められ,平成26年2月19日から,被告が継続して本件電子掲示板を運営していた平成29年9月30日までの期間については(前記前提事実⑸),被告による被告標章の使用は,同先使用権に基づくものとして原告商を侵害しない。
また,前記2⑵ツによれば,本件電子掲示板は,平成29年10月1日から平成30年4月までの間に Loki 社が運営するようになり,名称は「5ちゃんねる」と,ドメイン名は「https://5ch.net」と変更され,トップページ等における被告標章の表示も削除されたことが認められる。そうすると,平成29年10月1日以降,被告が本件電子掲示板を運営し,被告標章の使用を継続していた期間については,その使用は先使用権に基づくものとして原告商標を侵害しないといえ,Loki 社が運営を開始して以降は,被告が被告標章を本件電子掲示板のトップページ等に表示して使用した事実は認められない。
したがって,原告の商標権に基づく損害賠償請求には理由がない。なお,
原告商標1及び2に基づく差止めの必要性については,後記6のとおりであ
る。
……
8 結論
よって,本件訴えのうち令和元年11月2日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えは不適法であるから却下し,商標権に基づく被告標章の差止請求には理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,仮執行宣言は相当でないのでこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
令和2年(ネ)第10009号、同年(ネ)第10037号 商標権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第3428号)
【知的財産高等裁判所第2部における判決】
主 文
1 控訴人の本件控訴に基づき、原判決主文3項を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、2億1700万円を支払え。
(2) 控訴人の損害賠償請求のうち令和元年11月1日までに生ずべき損害賠償金の支払を求める部分のその余の請求及び「2ch.net」のドメイン名の使用の差止めを求める控訴人の請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文2項を取り消し、同項に係る控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用(控訴費用、附帯控訴費用を含む。)は、第1、2審を通じてこれを10分し、その6を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は、控訴人の本件訴えのうち当審の口頭弁論終結の日の翌日である令和4年11月29日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分は不適法であるが、その余の本件損害賠償請求の一部については理由があり、また、控訴人の被告標章差止請求及び本件ドメイン差止請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、前記第2の4の当審における当事者の補充主張に対する判断を含め、次のとおりである。
……平成18年5月12日発行の「2ちゃんねる公式ガイド2006」にも控訴人が本件電子掲示板の生みの親であることなどが記載されていたこと(同(2)カ、キ)のほか、その後も控訴人が平成18年当時本件電子掲示板の管理人であったことに沿う事実が認められること(同(2)ク~シ・セ・ト)を考慮すると、前記(1)で原判決の第3の4(3)を訂正の上で引用して認定したように「2ちゃんねる」の標章及び「2ch.net」の標章が周知性を獲得したというべき平成18年の時点において、その役務の提供の主体は、控訴人であったというべきである。
イ(ア) 他方で、本件全証拠をもってしても、平成18年の時点及びそれ以降平成26年3月27日(原告商標2の出願日)までのいずれかの時点において、「2ちゃんねる」の標章及び「2ch.net」の標章が、NTテクノロジー社又は被控訴人の業務に係る役務を表示するものとなったとみるべき事情は認められない。
(イ) この点、NTテクノロジー社については、本件電子掲示板のサーバを提供したこと(前記2(2)イ(ア))や、PINKちゃんねるを開設し、2ちゃんねるビューアの販売及び運営を行うようになったこと(同(2)ウ)、平成14年頃以降、本件電子掲示板の広告料の売上げからの送金を受けていたほか、2ちゃんねるビューア「●」の売上げを取得していたこと(同(2)ウ・エ)、本件ドメイン名について平成17年5月10日時点でAが運営面に関する連絡先として登録されたりNTテクノロジー社が登録サービス提供者として登録されたりしていたこと(同(3)イ~カ)が認められる。
しかし、サーバの提供者が直ちに当該サーバを用いた事業の運営者となるものではないことは明らかである。……
(3) まとめ
以上によると、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人が被告標章について先使用権を有するものとは認められない。
……
第4 結論
以上によると、控訴人の本件訴えのうち当審の口頭弁論終結日の翌日である令和4年11月29日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えは不適法であるから却下すべきであり、その余の本件損害賠償請求につき、2億1700万円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、また、控訴人の被告標章差止請求及び本件ドメイン差止請求には理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、控訴人の被告標章差止請求を認容し、本件ドメイン差止請求を棄却し、控訴人の本件訴えのうち令和元年11月2日以降に生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えを却下し、その余の本件損害賠償請求を棄却した原判決は一部失当であって、控訴人の控訴は一部理由があり、被控訴人の附帯控訴は理由があることから、控訴人の控訴に基づき、原判決主文3項を上記のとおり変更し(なお、原判決主文1項については、被控訴人がその変更を求めていない本件において原判決を控訴人の不利益に変更することは許されないことから、原判決が令和元年11月2日から令和4年11月28日までに生ずべき損害賠償金の支払を求める部分に係る訴えを却下したところについては変更しない。)、また、被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文2項を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。