知財情報
連休中、蔵王・熊野岳に登りました。4日は視界も悪く風速20m/s故にモスキート級の連れ合いが吹き飛ばされそうで途中下山、再度挑戦の5日は風速10m/s程度なので行ける所までと言う事で登り始めました。頂上まで行けたのは良いのですが、蔵王・御釡の湖面はエメラルドグリーンではなく、前日の雪で白濁になっておりました。
令和6年(ネ)第10026号特許権侵害行為差止等請求控訴事件
判決文を読むと特許第4974971号の権利者の口惜しさが良く判ります。
【請求項1】
ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、N-置換マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種の環構造を主鎖に有する熱可塑性アクリル樹脂と、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する分子量が700以上の紫外線吸収剤と、を含み、
110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物。
ここで、前記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格は、トリアジンと、トリアジンに結合した3つのヒドロキシフェニル基とからなる骨格
問題になったのは「分子量が700以上の紫外線吸収剤」の数値「700」です。
被告側の紫外線吸収剤の分子量は「699.91848」でした。
「分子量が700の紫外線吸収剤」と「分子量が699.91848の紫外線吸収剤」とは同じようなものと思うのが普通でしょうね。
しかし、その普通と思われるのが違うのが訴訟の面白いところでしょうか。
訴訟は知恵比べですね。その知恵比べで、今回は、特許権者が負けた訳です。
勿論、特許の審査にあっても、出願人・代理人と審査官との間での知恵比べです。
特許権者は、数値「700」は少数第1位の数字を四捨五入した数値と理解されるから、「700」=「699.5以上」であると理解すべきと主張しました。
更に、数値「700」に臨界的意義も無いのだと主張しております。
尤も、そうだとする、何故、「700以上」と限定したのかが理解できません…。しかも、出願時より「分子量が700以上の紫外線吸収剤」と限定しておりましたから…。
特許権者が均等侵害も主張した結果、知財高裁も数値「700」に臨界的意義が無い事を認め、均等の第1要件を充足する旨を判断しました。すなわち、数値「700」は発明の本質的な要件では無い事を認めた訳です。しかしながら、均等の第5要件(意識的除外等の特段の事情)を充足しない、即ち、分子量が700未満のものは権利範囲外である旨を特許権者が言っていた旨の判断を下しました。まあ是は理解できなくもないです。
「699.91848」を四捨五入する場合、通常は最後尾の数字を四捨五入でしょうから、「699.9185」です。
「699.91848」の小数第1位の数字「9」を四捨五入は通常では有り得ませんから、宇高は「699.9185」が「700」に相当と言うのは論理的に無理だったと思います。
特許法の超法規的判断「均等論」は、マキサカルシトール事件において、特許権者に極めて優位な立場を付与致しましたが、数値に関する点だけは従来の判断と同じでした。
数字に臨界的意義は乏しい(効果は漸近的に改善)と思われますから、とは言うものの拒絶理由通知に際しては臨界的意義が有るかのような反論を私達も致します。
私達はクレイムでは発明者が提案の数値よりも幅広く記載しております。その大幅に広目で設定した範囲外のものが出て来た場合、現状では致し方ないようです。
しかし、今回の知財高裁の判断で、数値限定発明でも均等の第1~第4要件をクリアできているので、第5要件もクリアできそうです。
本件は最高裁に上告していないようですが、特許権者が上告して争えば高裁の判決を引っ繰り返せたと宇高は考えてます。