令和3年(ワ)第24215号 商標権侵害差止等請求事件
11日・土曜日に那須・朝日岳に登って来ました。11日は登山指数が午前中はAで午後からはB、12日は登山指数がCと言う事なので、午前5時に出発しました。曇天でしたが、雨・風も無く、強い日差しもなかったので、幸いでした。宇高は高所恐怖症なので崖場はイヤなのですが、下山後の温泉が楽しみで山に登っております。下山の途中に珍しい銀竜草(別名:幽霊草)を見付ける事が出来ました。
【ZOOM】事件
上図・右側・上段の商標「ZOOM」が株式会社トンボ鉛筆の登録第4363622号商標です。
上図・右側・中段の商標「ZOOM」が株式会社ズーム(日本ズーム社)の登録第4940899号商標です。
上図・右側・下段の商標「ZOOM」がZoom Video Communications, Inc.(米国ズーム社)の登録第6417625号商標です。
本件事件の判決を新聞で知った時、宇高は、これは何?と思いました。
本件訴訟の判決文がやっと公開になり、判決文を読んだ処、裁判官の苦労が偲ばれました。斯の判決理由には頭を使ったのが良く判ります。AIには無理でしょうね。
被告(米国ズーム社)側には「ZOOM」が使える判決だから文句ないでしょうと感じさせる一方、
原告(日本ズーム社)側には約200000000円も損害賠償を認めたのだから満足して下さいと感じさせる内容です。
尤も、両者、共に、斯の判決内容には不服で知財高裁に控訴するのではないかと宇高は思っておりますが…
何れ、被告がZoom Video Communications, Inc. (米国ズーム社)の判決文も公開されると思うのですが、内容はほぼ同じでしょう。
令和3年(ワ)第24215号 商標権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ズーム
被告 NECネッツエスアイ株式会社
主文
1 被告は、原告に対し、1614万4086円及びこれに対する令和3年10月13日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
事実及び理 由
第1 請求
1 被告は、別紙商品・役務目録記載1のソフトウェアに別紙被告標章目録記載1ないし5の標章を付し、又は同標章を付した同ソフトウェアを販売し、若しくは電気通信回路を通じて提供してはならない。
2 被告は、電磁的方法により行う映像面を介した別紙商品・役務目録記載2の役務の提供に当たり、その映像面に別紙被告標章目録記載1、2及び4の標章を表示して役務を提供してはならない。
3 被告は、別紙商品・役務目録記載1のソフトウェア及び同目録記載2の役務に関する被告のインターネット上のホームページ、パンフレット等の広告に別紙被告標章目録記載1、2及び4の標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に同標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
4 被告は、前項のホームページ、パンフレット等の広告から前項の標章を削除せよ。
5 被告は、原告に対し、3億円及びこれに対する令和3年10月13日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
……
3 争点
(1) 被告による被告各標章の使用の有無(争点1)
(2) 本件商標と被告各標章の類否(争点2)
(3) 商品、役務の類否(争点3)
(4) 差止請求の可否(争点4)
(5) 被告の不法行為責任(争点5)
(6) 商標法26条1項6号の抗弁(争点6)
(7) 登録商標使用の抗弁(争点7)
(8) 権利濫用の抗弁(争点8)
(9) 原告の損害及び額(争点9)
……
第3 当裁判所の判断
……
2 争点1(被告による被告各標章の使用の有無)について
……
以上によれば、本件パンフレット及び本件ウェブサイトにおける被告標章1及び2の表示は、被告による本件ソフトウェア及び本件クラウドプログラムの提供で実現される本件サービスに関する広告であり、商品又は役務に関する広告に標章を付して頒布し、そのような広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するものであるから、商標法2条3項8号の使用に当たると認められる。
この点に関する裁判所の判断は妥当であると宇高は考える。
3 争点2(本件商標と被告各標章の類否)について
……
これに対し、被告は、本件商標は看者をして特定の文字や数字を表したものと理解することができず、図形を含んだ2つ又は3つの構成部分から成るものとして把握する可能性が考えられるなどと主張する。
確かに、本件商標の中央の二つの文字部分は、同一形状のものが左右対称に並べられることで、アルファベットの「C」を対面させたものや、無限大を表す「∞」の記号をデザイン化したものであると見ることもできるなど、一見すると多様な見方が生じ得るものといえる。しかし、仮に中央の二つの文字部分を上記のように解した場合、本件商標から特定の観念や称呼を導くことは困難であり、本件商標に接した看者においては、本件商標を全体として見てその意味や読み方を抽出しようとするのが合理的であることからすると、本件商標については、上記のとおり、全体としてアルファベットの「ZOOM」をデザイン化したものと理解するのが比較的に無理のない見方であるといえるから、被告の上記主張は採用することができない。
……
以上を前提に、本件商標と被告各標章の類否を検討する。
上記アないしオのとおり、本件商標と被告各標章は、本件商標が多分にデザイン化され、一見すると多様な見方が生じ得るものであるため、外観上の差異があることは否定することができないものの、両者はアルファベットの「ZOOM」又は「Zoom」の文字それ自体ないしこれをデザイン化したものである点で共通しており、その意味でいずれも外観において類似しているものといえ、また、称呼及び観念において同一であるから、両者の外観、観念及び称呼を全体的に考察すれば、一応類似するものということができる。
もっとも、本件証拠上、原告において本件商標をウェブ会議サービスに使用していることは認められないのに対し、上記カのとおり、取引の実情として、被告各標章については、令和2年7月以降、ウェブ会議サービスに関する事項に使用する場合には、一般の需要者において、ZCI(米国ズーム社)の出所を識別する著名な表示として認識されていたことが認められる。
以上を総合して全体的に考察すれば、被告各標章は、これをウェブ会議サービスに関する事項において使用する場合、令和2年6月までは、一般の需要者において、原告の出所を識別するものとして誤認混同するおそれがあったと認められるものの、同年7月以降については、これがZCIの出所を識別する著名な表示として認識されることになった結果、もはや原告の出所を識別するものとして誤認混同するおそれがあると認めることはできない。
斯の論理が宇高には理解でき難い。
恰も、万引きしたが、返したのだから、問題ないだろうとの論理のようにも宇高は感じてしまう。
株式会社トンボ鉛筆が出願・登録になっていた商標(登録第4363622号商標)は前述の通りである。
原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)の商標(登録第4940899号商標)は前述の通りである。
米国ズーム社が使用している商標(登録第6417625号商標)は前述の通りである。
原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)の商標(登録第4940899号商標)から「ZOOM」が導かれるのが普通・自然・合理的であったとしたならば、
株式会社トンボ鉛筆の登録第4363622号商標「ZOOM」に類似と判断されて、本来ならば、登録にならなかったであろう。
しかるに、これに反して登録になったと言う事は、被告の主張する通り、デフォルムされた登録第4940899号商標から「ZOOM」を読み取れないと言う事を示唆していると宇高は考える。
因みに、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)は、米国ズーム社の登録第6417625号商標に対して、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)所有の登録第4940899号商標に類似するから、商標法第4条第1項第11号に該当するので登録が取り消されるべきものである登録異議の申立てを行った。
しかし、特許庁の判断は、
「登録第4940899号商標は、語頭は「Z」、語尾は「M」の文字を図案化したものと認識し得るとしても、その間に配された無限大を表す「∞」状の部分は高度に図案化されていることから、直ちに何らかの文字を認識させるとはいい難いため、登録第4940899号商標からは、特定の称呼及び観念は生じないものである。」であり、
原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)の異議申立ては認められなかった。
要するに、特許庁は、登録第4940899号商標から「ZOOM」が導き出せないのが普通・自然・合理的と判断した。
尤も、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)は登録異議申立ての結果に不服で、無効審判を請求している。
上記特許庁の判断は、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)の商標(登録第4940899号商標)が株式会社トンボ鉛筆の登録第4363622号商標「ZOOM」とは非類似として登録になったのと軌を一にする。
Ifでは有るが、現在では、株式会社トンボ鉛筆の登録第4363622号商標は消滅している事、かつ、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)の登録第4940899号商標は除斥期間(登録後5年)を経過しているので、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)の登録第4940899号商標が無効になる事はないのだが、
除斥期間を経過していなかったならば、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)はどのような対処をしたであろうか。
又、Ifでは有るが、特許庁が、登録第4940899号商標の審査に際して、株式会社トンボ鉛筆の登録第4363622号商標に類似する旨の拒絶理由通知を出していたならば、
原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)はどのような対処をしたであろうか。
原告は、株式会社トンボ鉛筆の登録第4363622号商標「ZOOM」を知っていたが故に、「ZOOM」とは判断され難いデフォルメ体で出願して登録に持ち込んだのであろうと宇高は推察しているが…。
なにやかやと総合して判断すると、宇高も、原告(株式会社ズーム:日本ズーム社)の登録第4940899号商標からは、真ん中の個所がデフォルメされているが故に、「ZOOM」が導き出せないと判断するのが妥当であったろうと考えている。
4 争点3(商品、役務の類否)について
……
本件クラウドプログラムについては、これがユーザーに提供され、ユーザーにおいてパソコンのブラウザやスマートフォンから接続することで本件サービスを利用することができるようになるものであるから、本件クラウドプログラムの提供は「電子計算機用プログラムの提供」に該当し、当該役務と本件商標の指定商品である「電子計算機用プログラム」は、これらに同一又は類似の商標を使用する場合には、同一営業主の製造・販売又は提供する商品・役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるから、類似するものであると認められる。
この点に関する裁判所の判断は妥当であると宇高は考える。
特許庁も、「電子計算機用プログラム」と「電子計算機用プログラムの提供」とは類似関係に有ると考えている。
5 争点4(差止請求の可否)について
上記2のとおり、被告による本件商標の使用は、本件パンフレット及び本件ウェブサイトにおける被告標章1及び2の使用の限度においてのみ認められるから、当該使用の差止請求の可否について検討する。
原告の被告に対する本件商標権に基づく差止請求の可否につき、その判断の基準時は口頭弁論終結時であるところ、上記3のとおり、令和2年7月以降は、本件パンフレット及び本件ウェブサイトにおける被告標章1及び2の使用につき、本件商標との間で出所の誤認混同を認めることはできないから、口頭弁論終結時点において、本件商標権の侵害は認められない。
したがって、原告の被告に対する本件商標権に基づく上記使用の差止請求は理由がない。
確かに、誤認・混同がないのであれば、類似・非類似を考える必要がない。
類似するから、誤認・混同が起きる恐れが有るので、商標法は類似する商標の使用を禁止する。
この観点からすると、仮に、表面的には類似しているかも知れないが、実質的には、もう、類似していないので、もはや、誤認・混同の恐れが無いから、被告の商標の使用を差し止めなくても良い。
それはそうなんだが…もやもやとした気持ちです。
6 争点5(被告の不法行為責任)について
7 争点6(商標法26条1項6号の抗弁)について
8 争点7(登録商標使用の抗弁)について
9 争点8(権利濫用の抗弁)について
10 争点9(原告の損害及び額)について
争点5~争点9に関しては、もう、多言するまでもないであろう。
結局の処、「少なくとも、現在では、誤認・混同が起きない」以上、被告商標の使用を差し止める事が妥当でない故に、本件訴訟は被告の勝利と言う訳だ。
もう今更仕方がない事であるが、本件は仮処分で争っておれば面白かったかなと宇高は感じております。
つまり、有名になる前に米国ズーム社の商標「zoom」使用の禁止を求める仮処分申請が出されていたならば、仮処分故に、審理に悠長な時間を掛けられない事から、本件裁判官の論理からすると、米国ズーム社の商標「zoom」の使用は差し止められたであろうに…
本訴で争った為に審理に時間が掛かり、判決時点では米国ズーム社の商標「zoom」が有名になっていた為、米国ズーム社の商標「zoom」の使用が認められるに至ってしまった。
そうすると、本件は訴訟手続きの失敗か?
原告は、損害賠償よりも、目的は米国ズーム社の商標「zoom」の使用差止めであった筈。
差止めが認められたならば、損害賠償額(ロイヤリティ額)の交渉は原告の思うままであったろう…
同様な事件「システムインテグレーターの株式会社オービック(日本オービック社:英訳名(OBIC Co., Ltd.))が、米国のスマートフォンメーカーOrbicの日本法人に対して起こした商標権・不正競争行為に関する訴訟」を思い浮かべました。
この事件では、日本オービック社が勝訴し、日本法人は「Japan Orbic」という商号や「Orbic」ブランドの使用禁止と登記抹消を命じられました。
その結果、米国オービック社は日本市場から撤退しました。
Appleが「iPhone」の使用料として年間数億円を支払っているようです。この金額からすると、約2億円の損害賠償額は微々たる額でしょう。